抒情小曲集

序 詩


思ひ出は首すぢの赤い螢の
午後(ひるすぎ)のおぼつかない觸覺(てざはり)のやうに、
ふうわりと青みを帶びた
光るとも見えぬ光?

あるひはほのかな穀物(こくもつ)の花か、
落穗(おちぼ)ひろひの小唄か、
暖かい酒倉の南で
ひき揉(む)しる鳩の毛の白いほめき?

音色(ねいろ)ならば笛の類(るゐ)、
蟾蜍(ひきがへる)の啼く
醫師の藥のなつかしい晩、
薄らあかりに吹いてるハーモニカ。

匂ならば天鵝絨(びらうど)、
骨牌(かるた)の女王(クイン)の眼(め)、
道化たピエローの面の
なにかしらさみしい感じ。

放埓(ほうらつ)の日のやうにつらからず、
熱病のあかるい痛(いた)みもないやうで、
それでゐて暮春のやうにやはらかい
思ひ出か、たゞし、わが秋の中古傳説(レヂエンド)?


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